ありふれた街角で
湯山英之
内地へと
ゆらり揺られくっちゃべる
日毎悲しき船の軌跡よ
南たる学びの窓より眺めたる
広き牧草
十五の桜
汽車を降り
大きな馬に迎えられ
此処はみちのく八戸某所
みちのくの
奥で賑わう漁師町
泣いて笑って魚が躍る
冬風が
心まで冷やす鮫町で
熱燗一つ胸に携えて
轟々と雪の舞う八戸の
汽車より眺むる
うみねこ一羽
駆け抜ける
通りを吹き抜け粉雪が
八戸の春まだ遠く
真っ白な
ひらりと雪が舞い落ちる
桜がもう咲く春なのに
降り積もる
雪の中の道しるべ
小さな山の灯火が並び
生い茂る
森を抜けて法光寺
合わせる手に淡き月光
月明かり
蒼く燃ゆるは名久井岳
ひらりゆらりと舞い散るさくら
北の方
名久井が岳より眺めたる
吹きゆく風に微笑む月を
名川にて
耳を清ませし聞きたるは
月の奏でる真っ赤な音符かな
月が守(も)る名久井の森で
初し母
泣くな啼くなとシジュウカラ
見て御覧
あれが八木山青葉城
ひょっこりあたま太白山
明け方のホームに佇む少女よ
震える眼差し
旅立ちの光
染井吉野
ひょうたん池に子らの声
新井薬師に春雨が散る
朝靄(もや)に
遠く見ゆる釜臥を
構図ポーズに菜の花セット
悲しみに
明けても暮れても梅雨の空
ならば歩めと日の射す方へ
当てもなく見上げる天井
無意識に
ガタンゴトンとリズムをとりて
春高楼
栄華の夢よ横手城
奥羽より広がり素晴らしきかな
北方の
横浜の風に吹き吹かれ
桜の香りは南の彼方
ふるさとの
せわしく交わせし友の声
とき
帰りはしない緩やかな時間
帰ろうか。
思いとどまる、星月夜。
唯(ただ)ひとつの、月が恋しくて。
種差の
芝生の上に腰掛ける
楽しき家庭思いいずるか
浅草の大河に注ぐめずらしさ
青める柳
潮(しお)の香に舞う
停車場の十八番ホーム消えゆきて
思いを巡らす
寝台列車
この路をどれだけ走れば故郷か
巡るＳ・Ａ
揺れる思い
山間(やまあい)の館(やかた)のほとり千曲川
追いつ追われつ
竿を垂らす
菜の花の香り運ぶ風の谷
子らとじゃれる
陽だまりの中
懐かしき風がそよめき
学び舎の校門前に
我立ち返る
学び舎への途中駅
尻内の赤色列車も
今は無きにけり
房総の
去り往く夏に寂しげな
蝉と子供の響き渡る声
ドアー越しに見送る少女
トーキョーの
旅立つ列車に伝う涙
フジアザミ
少し肌寒い昼下がり
富士を背につかる大泉の湯
塩尻より分け入る山並み
秋木曽路
贄川(にえかわ)奈良井宿を訪ねて
庭もみじ
木曽川流れ山もみじ
山々深く高瀬の家で
福島の
代官屋敷訪れて
お茶を頂くひと時の秋
上諏訪で入浴タイム
下諏訪で入浴タイム
入浴三昧
同じ日をまた繰り返す
日常よ
通り過ぎる時間の中で
寒空の
東京の地に吾独り
北に向かひて故郷を思ふ
キャンバスに
さえずり春の雀かな
須坂の町の白き蔵恋し
春薫る
山の木立に緑の窓
信濃連山朝靄煙る
明け方の雨はもう止み
煙立つ四方の山に
鳴く不如帰
湯を浴びて
旨い食事に舌鼓
話も弾む智恵子の湯
山巓(さんてん)で
霧に霞む阿武隈川
霧に消えた安達太良の峰
懐かしき
匂い漂う新丁よ
ルーツを辿りて北へと進む
思い出すあの顔この顔
嬉しくも優しさに触れた
上山にて
落ちている
枇杷を見つけて夏を知る
帰り道の昼下がり
此処銀座
素敵な通りが此処にあり
憧れを抱く青森な私
新潟の
駅で思わず飛び乗った
「いなほ」という特急列車
ほろ酔いで小路に吸われ迷いたる
江戸の街か
村上の町
石打の
サービスエリアで食すただの白い握り飯
行きも帰りも
街角の流れる匂いに
切なくて
故郷思う気持ち強くて
靴裏に
姿留めし里桜
花の哀れに梅雨を憂う